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第7話 強欲と祈り


 自分のガウンと寝巻をベッドの下に脱ぎ捨てた。
 ビアンカと僕を隔てる邪魔者はいなくなった。
 僕たちは無言でただ抱き合った。互いの背中を撫でさする手は、欲望と情熱を持て余してぎこちなく、そして優しかった。僕の硬く張り詰めた身体に、ビアンカのやわらかい肌が吸いつくようにぴたりと密着していた。

 屹立した僕をじかに感じて、ビアンカは息を呑んだ。「まぁ、クリス……」
 彼女の頬に口づけを落としながら僕はささやいた。「どうしたの?」
「あなた、こんなに…… 大丈夫なの?」
 本当に心配そうな声色に、僕は思わず小さく吹き出した。
「大丈夫。男なら誰でもこうなるものだよ」
「でも……だって、こんなに熱くて……火傷しそうよ」
 ビアンカは泣きそうな顔をして口ごもった。
「こんなふうになるのは君のせいだよ、ビー」
 焼き切れそうな冷静さをなんとか繋ぎとめながら、僕は自分自身をさらに強く彼女に押しつけた。普段、生意気そうにツンと顎を上げているビアンカが、僕の欲望を前に頬を赤らめ瞳を潤ませ身体を震わせていた。舌舐めずりする狼のように、嗜虐的な征服欲がうずいた。

 ビアンカの白い乳房にむしゃぶりつくと、手と唇でそのやわらかさを堪能し、僕は赤ん坊のように夢中になって吸いついた。舌先で乳首をゆっくり転がしていると、すぐサクランボの種のように固くなった。
  胸からへそまで唇を這わせ、その周りの彼女のお腹の薄い肉を指で撫でたり、歯でつまんだりした。小さなくぼみに舌をねじ込むと、ビアンカの平らなお腹がびくんと波打った。両手で彼女の太腿をつかみ両脚を広げると、肉厚なバラのつぼみのような彼女自身に目を凝らした。
「クリス!」
 ビアンカが悲鳴を上げた。
 彼女の中心に口づけし、僕はそこを舌で優しくかき分けるように味わった。
「クリス、お願い、やめて! そんなところを……そんなことしちゃだめ!」
 ビアンカは僕から逃れようと身体をくねらせ、両脚をばたつかせた。彼女がベッドから転がり落ちないよう、僕は両腕で彼女の小さなお尻をしっかり抱え込んだ。
「だめじゃない。こうするものなんだ」
 僕は自信たっぷりに断言した。なぜなら、アレックスが確かそんなことを――「女はそこを舐めてやると喜ぶよな」――言っていたからだ。年上の人妻の相手ばかりしているあいつの言うことだ、きっと間違いないだろう。僕はそう確信していた。

「クリス…… お願い、クリス…… そんなところ、だめ……」
 ビアンカの抵抗は長くは続かなかった。
 悩ましげな吐息の合間に口ではしぶとく僕に抗っていたけれど、手は “離れるな、もっとしてくれ” とねだるように僕の後頭部を押さえていた。
 ビアンカを舌で愛撫しながら指で産毛をかき分け、その中に隠れている小さな快楽の芽を見つけた。舌先で押しつぶし唇で挟んで吸いつくと、ビアンカが仔猫のような泣き声を漏らした。
 僕の自制心が完全に焼き切れた瞬間だった。僕はますますそこから顔を離せなくなった。完熟の桃にかじりつくように、とめどなく溢れだすビアンカの果汁を一滴もこぼすまいと夢中ですすった。
 ビアンカの歓喜の溜め息を聞くと、この上ない愉悦と興奮が僕を突き動かした。

「ビアンカ、これから君を抱くよ」
 再び彼女の真上に覆いかぶさり、耳元でささやいた。濡れてほころんだつぼみをかき分けるように、興奮で硬く肥大した僕の先端をビアンカに押しつけた。荒々しい獣の息づかいに怯えるように、ビアンカはいたいけな仕草で肩を震わせた。
「君を僕のものにする」
 彼女の睫毛に優しく口づけを落とすと、ビアンカは小さくうなずいた。

 無垢の女の肉体は固く頑なだった。僕は辛抱強く、ゆっくり進んでいった。先端を包み込むビアンカのぬくもりがあまりにも心地よくて、少しでも気を抜くと爆発しそうだった。ひどくつらかった。力任せに彼女の中に突き進みたくてたまらなかった。
「クリス、いいの。我慢なんてしないで」
 僕の唇を小鳥のようについばみながらビアンカがささやいた。
 彼女を傷つけまい、痛めつけまいと歯を食いしばりながら、ごく先端だけを彼女に埋めたきり、僕はじっと動けずにいた。なのにビアンカは、そんな僕を弄び、誘い込むように腰を揺らした。僕は背中を強張らせてうめき声を漏らした。
 ビアンカは僕の肩にしがみつき、切なげな声で再びささやいた。
「私を、あなたのものにするんでしょ?」

 目の前で火花が散った。
 理性も自制心も優しさも全て焼き切れた。僕は思いやりをかなぐり捨て、突き進むようにビアンカの中に沈み込み、繊細にうごめく内側の熱さと締めつけに全身をわななかせた。しかし、ビアンカは僕の下で痛みに耐え、縮こまりながらすすり泣きを漏らしていた。男の支配欲と征服欲を満たす泣き声だった。
「ごめんよ、ビアンカ。痛くしてごめん」
 口では謝っているのに、肉体的欲求に抗えなかった。
 入って、出て、入って、出て、僕はその激しい動きを止めることができなかった。
「最初はみんな痛いのよ。だから、いいの」
 僕の罪悪感をやわらげようとするかのように、ビアンカはぎこちない微笑みらしきものを涙でぬれた小さな顔に浮かべた。
 彼女への愛おしさが溢れ、僕はその熱さにのぼせて溺れた。罪滅ぼしには到底なりえなかったけれど、彼女の顔中に愛を込めて口づけを落とした。首を伸ばして僕に応えようとするビアンカは、痛々しいほどかわいかった。

「クリス、私、おかしいのかしら。なんだか……きもちいい」
 ビアンカはおずおずと僕の背中に腕を回した。
「もう痛くない?」僕は思いやりの残骸をかき集めて聞いた。
「まだ少しだけ…… でも不思議な気分よ。熱くて、貪欲になってる気がする」
 目の前の女があまりにも愛らしかったので、僕はいよいよ前後不覚になった。
 これほど高揚したことはなかった。女を抱いたのも初めてだった。今まさに最初の男としてビアンカを抱いている感動に加え、その証である出血でなめらかになった彼女の中で、僕自身がきつく締めつけられる快感を諦めることなどできなかった。
 僕は本能と欲望のままに動いた。ビアンカの中を容赦なく突き進んだ。ここで大勢の騎士たちに囲まれ、サーベルを突きつけられて止めろと命令されても、きっと従うことはできなかっただろう。
「クリス」ビアンカが鼻をすすりながら叫んだ。「クリス!」
 とろんと濡れた瞳に捕えられると、もうだめだった。
「あぁ、ビー、君は僕のものだ」
 まるで熱病に冒されたようなうわ言だった。切迫した感覚が這い上がり、快感がつま先から脳天を突き抜けた。もはやは耐えられず今にも死にそうだと感じた。

「ビー、愛しているよ。僕だけのかわいいビアンカ」
 愛しさと熱情がほとばしり、猛烈な勢いで僕の中を駆け上がった。
 僕はビアンカの中で弾けて果てた。身体が粉々に砕け、どろどろにとろけ、歓びは無上だった。思わず、禁じられた愛の言葉を叫んでしまうほどに。
 彼女の中に深々と沈んだまま、その上にぐったり倒れ込んだ。やわらかな胸に頬ずりし、彼女の汗濡れた肌の甘い匂いを吸い込んだ。
 もうビアンカは僕のものだ。僕だけのものだ。
 まさに天国のベッドに横たわっている心地だった。

「ねぇ、クリス、喉が渇いたわ」
 互いの呼吸が落ち着くまでぐったりまどろんだ後、ビアンカが不意につぶやいた。明らかな意図を持って、彼女は期待を込めて僕をじいっと見つめてきた。呆気なくいつもの彼女に戻ってしまっていたので、僕は思わず苦笑いだった。
「あのワインでいい?」
 彼女が小さくうなずくのを確認してから僕は起き上がった。「ちょっと待ってて」
 気怠げにベッドに横たわるビアンカの額に口づけを落として僕は寝室を出た。飲みかけのワインのデキャンタとグラスを持って戻ってくると、ベッドの上に起き上がり、月明かりに照らされた彼女が僕を迎えた。彼女は何も身に着けていない裸の僕にわずかに怯んだものの、好奇心いっぱいに頭からつま先――とくに腰のあたりに目を留めている時間が長かったように思う――を眺めた。
 ワイングラスを受け取ると、ビアンカはありがたそうにすぐ飲み干した。彼女のほっそりした首で上下する喉の動きにさえ、僕の胸はたやすく高鳴った。
 渇いた喉が潤うと、僕がビアンカを抱え、二人一緒にベッドに横になった。

 明るい満月の夜だった。寝室の大窓から注ぎ込むやわらかな月明かりが、繭のように優しくビアンカと僕を包み込んでいた。
 ビアンカも僕も、ただ静かに寄り添っていた。
 激しい興奮と気怠い満足感の後にやってきた穏やかな沈黙は、彼女と僕をつなぐ親密と情愛をより濃密に深めてくれたような気がした。

 “人生はしばしば、善よりむしろ悪の選択をわれわれに提供する”
 高名な聖職者がそう言っているのだから、きっとそうなのだろう。
 ただし、僕のこの選択は――善でこそないけれど――決して間違っていない。ビアンカと僕は結ばれたんだ。だから必ず、僕らは心から愛し合うようになる。そうに決まっている。そうでなければならない。
 ビアンカを再び組み敷きながら、僕は祈るように自らを奮い立たせた。

 しかしほどなくして、いくら傲慢で強欲な僕といえども、現実から目を逸らすことはできなくなった。僕の祈りが聞き届けられないという、受け入れ難い現実から。



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