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第1話 評判


 “女の人生は評判で決まる”
 それが真実なら、私の人生はすでに終わったと考えてしかるべきだ。

 さて、私は今ちょっとした問題を抱えている。
 しかもこれは、私ひとりの力で解決することのできない難題だ。もうこうなったら、関係者だけじゃなくあなたにも打ち明けてしまいたい。ほら、私って生まれつき隠し事に不向きな性質(たち)だから、どうせすぐみんなにばれてしまうもの。
 でもその前に、少々長くなるけど、しばし私のこれまで六年間の回想に付き合ってちょうだい。

 今から六年前、私がまだ社交界デビューして一年足らずの十八歳だったとき。
 私は非常に富裕な商家の跡取り息子アンドリューに乞われて結婚した。東海岸の自由貿易同盟の二大名家のひとつ、この王国で最も名の知れた大貿易商ヴァンダーグラフ家の跡取り息子だ。社交界でもっとも理想的な結婚相手としてもてはやされている美しい紳士が、成り上がりの海運貿易商の娘でしかない私をなぜ? と多少疑問に思いはした。でも願ってもいない良縁と彼の熱心な申し込みで私、というか、私の家族は彼との結婚を取り決めた。
「あの方、なんだか腑に落ちないのよね」
 母はことあるごとにこうつぶやき、私が彼と結婚することを最後まで渋っていた。でも、幼い私はアンドリューの優雅で洗練された立ち居振る舞いと数々の情熱的な愛の言葉にすっかり夢中になり、母の言葉に聞く耳を持たなかった。父と兄は名門中の名門ヴァンダーグラフ家と姻戚関係を結べる利益しか目に入っていなかった。普段は母を下へも置かず大切にしている父も、このときばかりは彼女の訴えを退けた。

 ところが結婚式のたった一週間後、事は起こった。
 私の夫が姿を消した。彼が小間使いの娘と駆け落ちするという三文芝居のような出来事が起こったのだ。
 なるほど、ローズデール家は私の父で二代目という新興の海運貿易商だ。それほど権力も格式もない。そんな一族の娘――この派手な見てくれのせいで淑女たちからは敬遠され、紳士たちから色眼鏡で見られている私――なら、比較的自由に彼女との愛人関係を続けられると踏んでのことだったようだ。それならわざわざ結婚後に駆け落ちすることもないでしょうに。やっぱり若さと勢い、それと愛人という日陰の存在におとしめる小間使いへの申し訳なさもあったのかしらね。
 それなら最初から私と結婚しようなどとせず、さっさと駆け落ちでも心中でもやればよかったのよ。優柔不断なボンクラ息子め。

 融通の利かない教会からも役所からも、婚姻無効の許可は下りなかった。初夜もつつがなく済ませていたため、私のお腹に元夫の子供が宿っていないことを証明する月のものが訪れたのを確認すると、結婚からわずか一ヶ月後、私はアンドリューと正式に離婚した。
 こうして私は、晴れて出戻り女となった。

「あの若造のお前への仕打ちには業腹だったが、ヴァンダーグラフ家はさすが名門中の名門、国一番の大貿易商だ。落とし前をつける高潔さを持ち合わせている。我がローズデール家は今後もヴァンダーグラフ家と懇意にするから、お前もその心積もりでいなさい」
 私はこのとき、商人の切り替えの速さというものを改めて目の当たりにした。
 なるほど、これが巷で “貪欲で無情”と名高いローズデール家の商人か、と、自分の家族を客観的に捉えることができた瞬間だった。
 もともと結婚の話と並行して、元夫の実家ヴァンダーグラフ家は我が家に大きな商談を持ちかけていた。莫大な先行投資によって我が家が手に入れた最新鋭の巨大な蒸気機関船は、従来の貿易船に比べ推進力、輸送力ともにはるかに優れ、国中の海運貿易商たちの垂涎の的だった。ヴァンダーグラフ家はそこに目をつけた。我が家の蒸気機関船が海の彼方から運んできたものを、今度はヴァンダーグラフ家が国中に運ぶ。広大な王国の東西南北に網の目のような輸送網を持つヴァンダーグラフ家との業務提携だった。私の結婚によって、ローズデール家は国中の貿易商が喉から手が出るほど欲してやまないヴァンダーグラフ家との共同事業権を手に入れられるはずだった。
 ところが、両家の結婚がヴァンダーグラフ家側の過失でご破算となった。そのまま業務提携も流れるかと思いきや、なんと、いくらか我が家に有利な条件を追加してあちらから業務提携を再度打診してきた。海運貿易商としてローズデール家を築いた祖父以上の豪腕と評判の二代目である父と、その父以上に事業拡大に野心を燃やす跡取り息子の兄がこの好機を逃すはずがなかった。
 家名を傷つけられ、家長としての面目を潰され、娘を世間の笑い物にされ、そのうえ最愛の妻から「娘を踏み台にした挙句、評判まで傷を負わせるなんて……」と見損なわれ、私の元夫と彼の実家に怒りと憎しみをたぎらせていた男とは思えないほど、満面の笑みを浮かべて父は私にこう言った。
「えぇ、承知いたしましたわ、お父様」
「おぉ、リディア…… 聡明なお前ならきっと分かってくれると思っていたよ。父親として、私はお前にはすまないことをしたね」
「いいえ、お父様。私があの方をお慕いしていたのも事実です」
 私はしおらしく睫毛を伏せて言った。「本来なら私は修道院に入るべきなのに、このようにまた迎え入れてくださったこと、感謝していますわ」
「早まったことをしてはいけないよ、リディ」
 あからさまに慌てふためいた様子で、父は私の手を両手で握りしめて言った。「お前は私のかわいいたったひとりの娘だ。ローズデール家の娘として、今度こそ素晴らしい嫁ぎ先に――」
「お父様」
 “家長に従う” という娘が最も遵守すべき作法を無視して、私は父を遮った。「淑女として、娘として、ローズデール家の一員として、今後私はお母様の助言を第一に聞き入れていく所存ですので、お父様もどうぞそのお心積もりで」

 つまりこれはヴァンダーグラフ家の我が家に対する慰謝料、などではなく、ありていに言ってしまえば口止め料だ。さらに身も蓋もない言い方を許してもらえるなら、新たな契約に過ぎない。これでお互い貸し借りはなし、こちらとそちらは業務提携(パートナーシップ)という間柄でしかない、という事実の出来上がりだ。
 あまりこういう事例を耳にしたことがないから、確かなことは分からない。でも、みずから譲歩して新たな業務提携契約を差し出す程度には、ヴァンダーグラフ家にとって我が家の蒸気機関船と海運事業は価値と魅力があったようだ。
 ヴァンダーグラフ家を追い落とそうと手ぐすね引いて待っている貿易商は国中にわんさかいる。あちらとしては、どんな些細なことであれ彼らに付け入る隙を与えるわけにはいかない。跡取り息子が小間使いの娘と結婚直後に駆け落ちした事実は消せない。それでも、哀れな新妻の実家と業務提携を交わし、さらなる発展を築いているとなれば、人々はヴァンダーグラフ家に筋を通す潔さと名門貿易商としての風格を見出すだろう。驕りのない商人として信頼を深めるだろう――少なくとも市井の人々は。

 そういう本音や打算を差し引いても、この契約はかなり気前がよく良心的だったんじゃないかしら。
 おかげさまで、この六年間、我が家の海運事業は右肩上がりで前途洋々。
 それだけじゃない。父の涙ぐましい尽力の甲斐あって、母との夫婦仲はすぐ修復し、両親は以前より一層仲の良さを増した。兄アーサーは、数多の名家の若手商人たちを差し置き、自由貿易同盟の使節団のひとりとして国王陛下に謁見する名誉にあずかった。ローズデール家は輝く波濤に乗り、ヴァンダーグラフ家という頼もしい貿易風を帆に受けて大海原を順調に航行中だ。

 そんな中、私は輝く波と風の恩恵から完全に取り残されていた。

 私は “結婚直後に夫に駆け落ちされた哀れな新妻” という不名誉な評判とともに実家に出戻った。おまけに、この頃の私はおめでたいほど世間知らずの小娘だった。この離婚は私に非はない――元夫の母、ヴァンダーグラフ夫人は涙ながらに息子の愚行を私に詫び、そう慰めてくださった――のだから、社交界はまた温かく私を迎え入れてくれるはず。私の能天気な期待は、床に落とした卵と同じくらいもろくはかなく砕け散った。

「ねぇ、見て。ローズデール家のリディアよ」
「一週間で夫に逃げられたんだろう?」
「小間使いの女に夫を奪われるなんて可哀相に」
「まだ十八歳なのに離婚歴がつくなんて、私なら身投げするわ」
「どうしてたった一週間で捨てられたのかしら?」
「わからない? あの顔、あの身体つき。まるで高級娼婦じゃないの」
「あの女優のような派手な顔を見れば分かるわ。使用人を寝室に連れ込んだのよ」
「結婚前に自分の屋敷の男全員と関係を持っていたらしいぞ」
「また社交界に顔を出すなんて本当恥知らずなこと」
「嫌だわ。私の夫に狙いを定められたらどうしましょう」

 好奇。憐憫。同情。蔑視。嘲笑。悪意。
 まるで無数の細い針が私を絶え間なくつついて苛んでいるようだった。すべての方角から常に憐みと蔑みの視線を感じた。
 けれど、私はまだ希望を捨てなかった。
 こんな私にも友人くらいいる。彼らならきっと私を受け入れてくれるに違いない。

「……ごきげんよう、ミス・ローズデール。わたくし、ダンスの約束があるので失礼させていただきますわ」
 結婚するまで互いに名前で呼び合うほど親しくしていた女の子の何人かも、私が声をかけると見ず知らずの清掃婦に突然呼び止められたように困惑し、極力私と目を合わせないよう、私と近づかないようよそよそしく振る舞った。
 よく柱の陰でワインをすすりながら、腕のいいドレス職人の情報を交換したり、紳士たちを好き勝手に品評したり、親たちには決して聞かせることのできないおしゃべりをたくさんした仲だというのに。
「やぁ、ミス・ローズデール。また君をこの呼び名で呼ぶことができて嬉しいよ」
 舞踏会でよく一緒にワルツを踊った幼馴染みの紳士たちは、透明な氷の盾を突きつけるように、私に他人行儀の冷たい微笑みを浮かべるだけだった。
 彼らが私を “ミス・ローズデール” なんてお上品に呼ぶのは、せいぜい口うるさい親たちの前で私をダンスに誘うときくらいだったのに。

 社交界への復帰はその一晩限りで諦めた。諦めざるを得なかった。
 敵意と挑発と嫉妬に親しみ慣れた私も、無視と冷笑と侮蔑にはてんで不慣れだった。海に放り投げられ鮫に貪られた哀れな子ウサギのように、私の心はぼろぼろに傷つき沈んでいった。
 それからというもの、私は家に引きこもり、読書とハーブ作りと畑仕事に勤しんだ。

「リディア、お前はまたこんなところで油を売っているのか」
 秘書と従僕を従え、洗練された濃紺の上着を着た背の高い男が登場すると、鋭い矢を射られ息を止められたような緊張感が厨房に走った。それまで一緒に和気あいあいと談笑していた若い調理人や厨房女中(キッチンメイド)たちは、鷹ににらまれたリスのようにびくびく怯えた表情を浮かべた。
 あぁ、なんて場違いな男なの。
 私は溜め息をぐっとこらえた。そんな私を冷やかに見据えながら、兄アーサーがお決まりの小言を吐き捨てた。
「木綿のスカートを履いて田舎農婦の真似事をするひまがあるなら、今すぐ絹のドレスに着替えてキャボット夫人の茶会にでも顔を出してこい」
「いやよ」
 兄が最も眉をひそめる野暮ったい頭巾を見せつけるようにかぶり直すと、私はレモンとローズヒップのマーマレードをこねながら彼に言い返した。
「ねぇ、アーサー、ここは暑いでしょう? 幅広のネクタイ(クラヴァット)をゆるめて、その仰々しい上着も脱いだらいかが?」
「私は毎日分刻みの予定で重要な商談をこなしている。その合間を縫い、わざわざお前に忠告をくれてやっているのがなぜ分からない」
 冷酷な猛禽類のような鋭い眼差しに、罪のない使用人たちはすくみあがった。
 しばらく厨房の火を借りるのは控えるべきね。こうしてここで陽気な調理人や気心知れた厨房女中(キッチンメイド)たちとおしゃべりをするのはとても楽しい時間なのに。私はひどく気落ちした。
 私の兄に限ったことではないけれど、殿方はどうして女に忠告や指導を与えるとき、いちいち恩着せがましくなるのかしら。
 とくに、こちらが助言を求めていないときに限って。
「お前はローズデール家の娘として有益な結婚をする義務がある。それを忘れるな」
「それならすでに果たしたわ!」
 私はかっとなって反論した――いつものように。
「私はヴァンダーグラフ家の跡取り息子という、これ以上ない相手と結婚したわ! 夫はたった一週間で愛人と駆け落ちし、私たちは一ヶ月で離婚し、私は出戻り女になったけれどね。でも、あの結婚は私だけじゃなく、お父様も、お兄様! アーサー! あなたもおおいに賛成なさっていたわよね。お母様の意見を押しのけてまで、ローズデール家一丸となって推し進めた結婚よ。それなら私ひとりが判断を誤って不手際を起こしたように責めたり、保護監察官のように逐一ああしろこうしろと命令しないでちょうだい。今すぐ私を再婚させたいなら、ヴァンダーグラフ家に遜色のない家柄と、アンドリュー以上に見目がよく、立ち居振る舞いが優雅で洗練されて、殿方としても商人としても彼より優れた紳士をつれてきていただけますこと?」

 このように、ときどき忌々しい小競り合いはありつつも、私は社交界にいるよりよほど心穏やかな暮らしを手に入れた。
 十八歳の私は貿易商の娘というより、修道院の尼僧のような慎ましく規則正しい生活に埋没していった。

「あら、元アンドリュー・ヴァンダーグラフ夫人じゃないの。ごきげんよう」
 しかし、惨めな離婚の一年後、母の友人であるキャボット夫人の再三の誘いをこれ以上断ることができず、嫌々ながら再び社交界に顔を出すようになっていた。
 だいぶ薄らいではいたものの、好奇の視線はいまだ根強かった。居心地の悪さに耐えられず大広間の隅のバルコニーで涼んでいたら、幼馴染みの娘たちが獲物を追い詰めたキツネのような笑顔を浮かべてやってきた。ヒヤシンスのような上品な青、青リンゴのような優しい緑、バターのようなまろやかな黄色。淡く澄んだ色合いのドレスをまとった、美しい猛獣たち。

「あなた、やっぱりそのけばけばしい赤毛と偽物のエメラルドみたいな瞳がいけないのよ。いつ見ても本当に派手で下品だわ。それに肩や腕は貧相なくせに胸だけ牝牛みたいに膨らんで、いかにも身持ちが悪そうじゃないの。まぁ、屋敷中の男と寝ているあなたにはお似合いの代物よね。だいたい、赤毛の女って満足に子供も産めない石女ばかりなんでしょ? 子供を産めないなんて女としても妻としても価値がないわ。それなら小間使いの娘のほうがまだマシよ」
 裕福な銀行家の娘ジリアン・ピアースは自慢の金髪を高く結い上げ、口元を上品に扇子で隠し、青い瞳に貪欲で意地悪な光をきらめかせた。
 ジリアンは私を毛嫌いしている。理由は簡単なこと。私が彼女に従わないからだ。
 彼女はどうやら自分をこの国の王女殿下か何かだと思い込んでいるようで、自分の意に沿わない娘を国に反旗を翻した逆賊であるかのごとく徹底的に攻撃し、社交界から撃ち落とし追放しようとする。
 だから、私がヴァンダーグラフ家に嫁ぐと知ったときも、天使のような美貌を台無しにする魔女のような暴言を吐き捨ててくれた。彼女はただでさえヴァンダーグラフ家と対立する一族の血を引いているから、ますます私への嫌悪を強めたようだ。
 はいはいと話を聞き流していれば済むとはいえ、ヒステリックで我慢を知らないジリアンの相手をするのはかなり骨が折れる。このときも可憐な薄桃色のドレスをまとった彼女の背中に、黒いコウモリのような翼が見えた気がした。

 でも、私が彼女からこれほど嫌われる本当の理由は、こういうときに怯えて涙をこぼしたり、しおらしくうつむいたりしないからなのよね。

「あら、ジリアン、彼が小間使いの娘と駆け落ちしたなんてよく知っているわね!」
 私はさも驚いた風を装って言った。「なんてことかしら……ヴァンダーグラフ家の使用人全員に緘口令を敷いたはずなのに…… 私、ヴァンダーグラフ夫人からきつく言われているのよ。“もし息子の駆け落ちの相手のことを知っている者がいたら、必ずどこの誰なのか知らせてほしい” って」
 こんなことはもちろん口から出まかせだ。
「みんな知ってることよ!」
 社交界における地位と権力で及びもつかないヴァンダーグラフ家の女主人を出され、ジリアンはあからさまにうろたえた。
「あら、そうなの? それは大変。そのこともヴァンダーグラフ夫人にお知らせしなきゃね」
 彼女の動揺ぶりに、私は多少溜飲が下がる思いだった。と、同時に、かねてから気がかりだった心配ごとが頭をかすめた。
 祖母、母、と美貌と機知で名高い社交界の華の血を受け継いでいるわりに、ジリアンは相変わらず軽率な言動が目についた。密室でもないバルコニーで誰が聞き耳を立ててるとも知れないのに、私に向かって “元アンドリュー・ヴァンダーグラフ夫人” なんて嫌味を声も潜めず言い放ったのよ。それが私以外の誰か――例えばヴァンダーグラフ夫人やそのお友達といった社交界の女帝たち――の耳に入ったら、ジリアンのこの場所での前途はかなり多難になるはず。
 そのあたり、わかっているのかしら? 大丈夫かしら?
 溜め息をこらえて、私はジリアンたちを見つめ返した。

「ジリアン、いちいち私に声を掛けずにいられないくらい、あなたが私のことを大好きなのはよくわかったわ。ほかの娘たちのように私を無視していられないから、こうして大広間の端にいる私をわざわざ探し当ててくれたのよね。ありがとう。でも私、そろそろ中に戻らなきゃ。そこをどいていただける?」
「調子に乗るんじゃないわよ、出戻り女!」
 本物の魔女さえ怯えかねない形相で、ジリアンは金切り声を上げた。
「あんたなんて裏庭で臭いハーブでも育てながら、死ぬまであの趣味の悪い屋敷から出て来なきゃいいのよ! あんたのその男好きそうな派手派手しい顔、大嫌い! 娼婦みたいで吐き気がする! いいこと、キャボット夫人のおかげで社交界に出入りできるからってこれだけは忘れるんじゃないわよ。純潔を失った挙句、一週間で夫に逃げられたあんたなんて、このさき一生、次の嫁ぎ手はつかないんですからね!」

 憤然ときびすを返し、しゃなりしゃなりと去っていくジリアンたちの後ろ姿を見送りながら、このときの私はまだそれほど自分の人生に卑屈になっていなかった。

 まさかこの性悪娘の予言が見事的中するとは、露ほども思っていなかったんだもの。



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